[前回のエグゼクティブサマリー]
前号の調査対象は2026年9月16日〜9月29日でした。したがって、続編は翌日の9月30日〜10月13日です。9月30日の1日間と、10月1〜13日の13日間で、きっかり14日間になります。10月14日以降の発表は入れていません。なお、OCP Global Summitは10月12〜15日の開催ですが、本稿では10月12日と13日の発表だけを採用し、14〜15日は次号へ送ります。
調査対象期間:2026年9月30日〜10月13日の14日間
情報基準日:2026年10月13日
想定読者:東証プライム上場企業の経営者、経営企画、CFO、CIO/CDO、調達・研究開発・事業責任者
前号「海外/日本のAI半導体・メモリ重要ニュース:9月29日までの2週間」では、AI半導体市場をNVIDIA GPU市場だけで見てはいけないこと、そして、
AI半導体 × HBM/DRAM × NAND × 先端パッケージ × インターコネクト × 電力
というシステム全体の供給能力を見る必要があると整理しました。前号では、HBMが世界のDRAMウエハー能力の約3割を使う可能性、中国企業が独自AIアクセラレータを巨大クラスタとして展開する動き、CoWoSを中心とする先端パッケージ投資を取り上げました。さっつーのAIエージェント:監修 今泉大輔
今回の14日間では、その産業構造がさらに一段進みました。
最大の変化は、クラウド大手の独自AI半導体が、NVIDIA GPUを補完する小規模な専用チップから、自社AIサービスを支える主力基盤へ移ったことです。
Microsoftは、独自AIアクセラレータ「Maia 300」を2027年からマルチGW規模で配備し、最大では100万個を超える可能性があると明らかにしました。Microsoftは、同システムが主要なGPUベースシステムと比べて、1MW当たり約40%多くのトークン処理を行えると主張しています。比較対象を明示していないため、この40%はMicrosoft自身の評価として読む必要があります。The Official Microsoft Blog
第二に、メモリの供給能力が、顧客の現金前払いによって囲い込まれる市場になりました。
Micronの長期供給契約に伴う顧客の金融コミットメントは320億ドルへ増え、その大半は現金預託です。契約済み将来収益の指標であるRPOは約1,500億ドルに拡大し、2027年のHBM供給量の大部分も契約済みとなりました。メモリメーカーが設備を建ててから顧客を探すのではなく、顧客が先に資金を入れて将来の製造能力を確保する構造です。Reuters
第三に、AI向け需要はHBMだけでなく、通常のDRAMとNANDの価格・企業利益まで押し上げ始めました。
Samsung Electronicsは、2026年第3四半期の営業利益が前年同期比で約9倍の107兆4,000億ウォンになるとの暫定見通しを示しました。一方、同じSamsungのスマートフォン事業は、メモリなど部材価格の上昇によって10億ドルを超える損失になったとアナリストは推計しています。
つまり、AI投資ブームは同じ企業グループ内でも、
メモリ部門から巨額利益を生む一方、メモリを購入する完成品部門の利益を圧迫する
という利益移転を起こしています。Reuters
第四に、先端パッケージの供給網が台湾から米国へ広がり始めました。
TSMCはGlobalFoundriesと20億ドル、5年間の契約を結び、CoWoS向けシリコンインターポーザを米ニューヨーク州で生産します。量産開始は2028年上期の予定です。GPUダイを米国で製造するだけでなく、HBMとGPUをつなぐパッケージ部材まで米国内に持つ動きが始まりました。GlobalFoundries
第五に、日本企業では、キオクシアがAI用SSDを液冷システムの中へ組み込む方向を明確にし、ルネサスが800VDCから48V、12V、6Vへ電力を変換するGaNパワー半導体を相次いで投入しました。
AI半導体市場は、演算チップやHBMだけではありません。
データを保持するSSD、電力を変換するGaN、熱を除去する液冷設備までが、AI計算性能を決める半導体システムの一部になっています。KIOXIA Corporation
- エグゼクティブサマリー
- 経営指標がFLOPSから「Tokens per MW」へ
- HBMだけでなく、SOCAMMとSSDも伸びる
- Samsungも「HBMだけ」ではなく全階層を提案
- 7-1.E1.L型QLC SSDで1Uサーバーを高密度化
- 7-2.CM9シリーズに直接液冷対応モデル
- 8-1.650V GaNを8mm角・両面冷却パッケージに
- 8-2.100V GaNで48V以下の電力変換も高効率化
- 1.NVIDIA前提だけでAI投資計画を作らない
- 2.FLOPSではなく「1MW当たりの成果」を聞く
- 3.メモリを市況品として扱わない
- 4.HBM以外のメモリ価格もストレステストする
- 5.先端パッケージの第二供給地域を確認する
- 6.AI半導体市場への参入領域を演算チップに限定しない
エグゼクティブサマリー
| 論点 | 今回確認された変化 | 東証プライム企業への意味 |
|---|---|---|
| カスタムAI半導体 | MicrosoftがMaia 300を100万個超、マルチGW規模で配備する可能性 | NVIDIA GPUだけを前提に事業計画を立てられなくなる |
| メモリ供給 | Micronの長期契約コミットメント320億ドル、RPO約1,500億ドル | メモリ供給枠を現金前払いで確保する時代へ |
| メモリ価格 | Samsungの営業利益が約9倍、通常DRAM・NANDも高騰 | AIを使わない製品にも部材価格上昇が波及 |
| 先端パッケージ | TSMCとGlobalFoundriesが米国インターポーザ生産で20億ドル契約 | CoWoS供給網が台湾一極から地理的分散へ |
| NAND/SSD | キオクシアが高密度QLCと直接液冷SSDを発表 | SSDが保管装置からAI Context Memoryへ |
| 電源半導体 | ルネサスが650Vと100VのGaNを相次ぎ投入 | 800VDC電源変換が日本企業の参入領域になる |
| 中国 | NVIDIA 34%、Huawei 28%、非GPU型がGPUを台数で上回る | 単体性能よりクラスタ全体の性能で評価すべき |
| 設計標準 | NVIDIAがVera Rubinのラック設計をOCPへ提供 | 半導体が電源・液冷を含む標準ラック製品になる |
1.今回の主要ニュース一覧
| 日付 | 企業・テーマ | ニュース | 経営上の意味 | 元記事 |
|---|---|---|---|---|
| 9月30日 | Micron | 長期契約コミットメント320億ドル、RPO約1,500億ドル | 将来のメモリ能力を顧客が前払いで確保 | Micron公式 |
| 9月30日 | ルネサス | 800VDC向け650V GaN | AIラック電源の高密度化 | ルネサス公式 |
| 10月1日 | Volantis | 光でAIチップと多数のメモリを接続 | Memory Wallへの光I/O適用 | Reuters |
| 10月6日 | AMD | 2027年のCPU・GPU供給を大幅増 | ウエハー、HBM、組立能力の確保競争 | Reuters |
| 10月6日 | ルネサス | AIサーバー向け100V GaN | 48V以下の電力変換までGaN化 | ルネサス公式 |
| 10月8日 | Samsung | 営業利益107.4兆ウォンとの暫定見通し | AIメモリ不足が通常DRAM・NANDにも波及 | Reuters |
| 10月8日 | TSMC | 第3四半期売上高が約50%増の過去最高 | AIロジック需要がさらに拡大 | TSMC公式 |
| 10月8日 | TSMC・GlobalFoundries | 米国でCoWoS用インターポーザ生産 | 先端パッケージ供給網の米国化 | GlobalFoundries公式 |
| 10月9日 | キオクシア | E1.L型QLC SSDをサンプル出荷 | 1Uサーバーの高密度AIストレージ | キオクシア公式 |
| 10月12日 | Microsoft | Maia 300をマルチGW、最大100万個超規模へ | カスタムASICが主力推論基盤へ | Microsoft公式 |
| 10月12日 | NVIDIA | Vera Rubinのラック・トレイ設計をOCPへ | チップから電源・液冷・ラック標準へ | NVIDIA公式 |
| 10月13日 | キオクシア | 直接液冷対応CM9 SSD | SSDも液冷ラックの一部へ | キオクシア公式 |
| 10月13日 | 中国AI半導体 | NVIDIA 34%、Huawei 28% | 中国で国産AI半導体への置き換えが進展 | Reuters |
| 10月13日 | AMD・Scaleway | スウェーデンにAMD型AIスーパーコンピューター | AMD AI基盤が商用導入段階へ | Reuters |
2.〖今回最重要〗Microsoft Maia 300――カスタムASICが「主力AI基盤」になる
10月12日
元記事①:Microsoft「Microsoft to expand Azure Maia system to multi-gigawatt deployments」
元記事②:Reuters「Microsoft plans huge deployment of its own AI chips, with an eye on saving costs」
Microsoftは、独自AIアクセラレータ「Maia 300」を2027年から量産配備します。
Reutersによると、配備数は100万個を超える可能性があります。Microsoftは公式には「マルチGW規模」と表現しており、100万個超は確定発注・出荷済み台数ではなく、2027年の配備計画が最大規模まで進んだ場合の数字です。Reuters
Maia 300は、学習を中心とする汎用アクセラレータではなく、
- 長いコンテキストを使う推論
- メモリ負荷の大きい処理
- トークンを順次生成するDecode処理
- 複数段階で仕事を行うAIエージェント
に最適化した「Inference-first」の半導体です。
1ラックに96個のMaia 300を搭載し、ラック電力は167kWです。8スタックのHBM4を搭載し、1チップ当たり18TB/sのピークメモリ帯域、950WのTDPを持ちます。ラック全体では27.6TBのHBMと、1.7PB/sの総メモリ帯域になります。The Official Microsoft Blog
Microsoftは、Maia 300が主要なGPUベースシステムと比べ、
1MW当たり約40%多くのトークン処理
を実現するとしています。
ただし比較対象となったGPUシステムは公表されていません。この40%は、Microsoft自身のシステム比較値です。第三者による独立比較として扱うべきではありません。The Official Microsoft Blog
経営指標がFLOPSから「Tokens per MW」へ
このニュースで最も重要なのは、100万個という台数だけではありません。
Microsoftが評価軸として、
「半導体1個が何FLOPSか」ではなく、「1MWの電力から何トークンを生産できるか」
を前面に出したことです。
AIサービス事業者が欲しいのは、ベンチマーク上の最高性能ではありません。
同じ電力、同じデータセンター、同じ資本支出で、
- 何人の顧客へサービスを提供できるか
- 何トークンを生成できるか
- AIエージェントを何件動かせるか
- 1トークン当たり原価をいくらまで下げられるか
です。
Microsoftは、NVIDIA GPUを全面的に置き換えるというよりも、予測可能な自社サービスを自社ASICへ移し、高価で汎用性の高いGPUを、それが本当に必要な処理へ集中させようとしています。
つまりカスタムASICは、
GPUの代替品というより、GPUを最も経済的に使うための事業ポートフォリオ
になりつつあります。
3.〖メモリ最重要〗Micron――顧客が320億ドルを前払いして製造能力を確保
9月30日
元記事①:Micron「Micron Technology, Inc. Reports Record Fiscal Fourth-Quarter and Full-Year 2026 Results」
元記事②:Reuters「Micron’s AI-fueled revenue forecast blows past estimates, backlog swells」
Micronの2026年度第4四半期売上高は542億2,900万ドル、通期売上高は1,331億8,800万ドルとなりました。翌四半期の売上高見通しは615億ドル±15億ドルです。マイクロンテクノロジー投資家向け情報
しかし今回の最大の数字は、売上高ではありません。
顧客が長期供給契約に基づいて行った金融コミットメントが、前四半期の220億ドルから320億ドルへ増えました。その大半は現金預託です。
また、将来の契約済み収益を示すRPOは約1,000億ドルから約1,500億ドルへ増えました。Micronは2027年のHBM供給量の大部分について、すでに契約を確保したと説明しています。Reuters
注意したいのは、320億ドルが売上高ではないことです。
顧客が将来のメモリ供給を確保するために差し入れた預託金などであり、RPOも将来の契約上の履行義務です。
それでも産業構造としては大きな変化です。
従来のメモリ産業は、
需要を予測して工場を建てる → 需給が緩む → 市況が暴落する
という循環を繰り返してきました。
現在はAI顧客が先に長期契約と現金を入れ、その資金を根拠にメモリメーカーが設備能力を増強します。
つまり、
メモリ供給能力そのものが、予約販売されるインフラ資産になった
ということです。
HBMだけでなく、SOCAMMとSSDも伸びる
Micronは同時に、
- 512GB DDR5 RDIMMをサンプル出荷
- サーバー向けSOCAMM売上高が前四半期比2倍超
- PCIe Gen5/Gen6 SSDをKVキャッシュ用途で出荷
したと発表しました。マイクロンテクノロジー投資家向け情報
AIのメモリ需要はHBMだけではありません。
| メモリ層 | 主な役割 |
|---|---|
| HBM | GPU直近の最高速メモリ |
| DDR5/SOCAMM | CPU・システムメモリ |
| CXLメモリ | 外部拡張・プール化 |
| SSD | KVキャッシュ、Context Memory、大容量データ |
| NAND | 長期保存、データセット、モデル保存 |
AIエージェントが長いコンテキストを使うほど、HBMの外側にあるメモリ層も増えます。
メモリ調達は、HBMだけを確保すれば終わりではありません。
4.Samsung――AIメモリで営業利益9倍。ただしスマートフォン部門を圧迫
10月8日
元記事①:Samsung Electronics 第3四半期暫定業績
元記事②:Reuters「Samsung flags $80 billion profit on AI boom, highest quarterly for any tech company」
Samsungは2026年第3四半期について、
- 営業利益:107兆4,000億ウォン
- 売上高:195兆ウォン
との暫定見通しを発表しました。
営業利益は前年同期比で約9倍、売上高は約127%増です。部門別の詳細業績は10月29日に発表されるため、本稿の時点では暫定値です。Reuters
AIメモリ需要を背景にHBMが伸びただけではありません。
Reutersによれば、通常のDRAMとNANDも供給が引き締まり、価格が上昇しました。SamsungとMicronは、需給の逼迫が2028年まで続く可能性があると見ています。Reuters
一方、Samsungのスマートフォン事業は、メモリなど部品価格の上昇によって10億ドルを超える損失になったとアナリストは推計しています。ファウンドリー事業も固定費と低稼働率のため、赤字が続くと予想されています。いずれもSamsung公式の部門別確定値ではなく、アナリスト推計です。Reuters
ここには、東証プライム企業にとって重要な教訓があります。
AI半導体ブームが企業全体に一様な利益をもたらすわけではありません。
メモリを製造する企業は利益を得ます。
しかし、
- スマートフォン
- PC
- 通信機器
- 車載機器
- 産業用コンピューター
- サーバー
など、DRAMやNANDを購入する企業は原価上昇に直面します。
自社がHBMを使わなくても、AIブームによるメモリ価格上昇から逃れられない可能性があります。
Samsungも「HBMだけ」ではなく全階層を提案
OCP Global SummitでSamsungは、
- HBM4E
- LPDDR5X-PIM
- CXL接続メモリ
- SOCAMM2
- PCIe Gen6 SSD
- 大容量QLC SSD
- 直接液冷に組み込んだSSD
を展示しました。
AIインフラ向けメモリ事業は、HBM単品ではなく、高速化・容量拡張・KVキャッシュ・永続保存を一体化する事業へ移っています。Samsung Semiconductor
5.TSMC――第3四半期売上高は過去最高。AI半導体需要がさらに加速
10月8日
元記事①:TSMC「2026 Monthly Revenue」
元記事②:Reuters「TSMC’s third-quarter revenue surges to record, beating market forecast」
TSMCの9月売上高は5,118億5,700万台湾ドルで、前年同月比54.6%増でした。
1〜9月累計では3兆8,987億2,700万台湾ドルとなり、前年同期比41.1%増です。TSMC
Reutersによると、第3四半期売上高は約1兆4,900億台湾ドル、約467億ドルとなり、前年同期比約50%増で過去最高を更新しました。詳細な第3四半期決算は10月15日の発表であり、本稿の対象期間外なので、利益や設備投資見通しは次号で扱います。Reuters
Microsoft Maia 300は、演算チップレットにTSMCの2nm級プロセスを採用します。
NVIDIA、AMD、Microsoft、Apple、各種カスタムASICが同時に先端プロセスへ移ると、TSMCの供給能力をめぐる競争はさらに激しくなります。Microsoft自身が半導体を設計しても、製造能力をTSMCから確保しなければ配備できません。Reuters
「独自半導体を作る」ことは、TSMC依存から離れることではありません。
むしろ、
GPUメーカー、クラウド企業、AI企業が同じ先端Fabの製造枠を競う
ことを意味します。
6.TSMC×GlobalFoundries――CoWoS用インターポーザを米国で生産
10月8日
元記事①:GlobalFoundries
「GlobalFoundries reaches agreement to establish U.S.-based supply of silicon interposers for advanced AI packaging」
元記事②:Reuters「GlobalFoundries to make key AI chip component for TSMC in $2 billion deal」
GlobalFoundriesは、ニューヨーク州Malta工場でTSMCのCoWoS向けシリコンインターポーザを生産します。
契約は20億ドル、当初5年間で、2028年上期から量産を立ち上げる計画です。GlobalFoundriesによれば、米国内で初めてとなる先端パッケージ向けシリコンインターポーザ供給源です。GlobalFoundries
AIアクセラレータは、GPUダイを作っただけでは完成しません。
GPUやASICと複数のHBMをシリコンインターポーザの上に載せ、微細配線で接続し、基板へ実装する必要があります。
したがって供給能力は、
先端ロジックFab
× HBM
× インターポーザ
× パッケージ組立
× 基板
× 検査
の最も不足している工程で決まります。
これまで先端ロジックだけを米国へ移しても、パッケージ工程を台湾に依存したままでは、完成したAI半導体を米国内で供給できませんでした。
今回の契約は、AI半導体の米国生産を、
「前工程のFab」から「完成品を作るパッケージ供給網」へ広げる動き
です。
日本の材料・装置企業は、台湾のCoWoSラインだけでなく、米国で立ち上がる新しい認定ラインにも対応する必要があります。
7.〖国内最重要・メモリ〗キオクシア――SSDが「AIの外部メモリ」と「液冷部品」になる
7-1.E1.L型QLC SSDで1Uサーバーを高密度化
10月9日
元記事:キオクシア「ハイパースケールデータセンター向けE1.L QLCベースSSDの開発について」
キオクシアは、第8世代BiCS FLASH QLCを採用した「KIOXIA LD4シリーズ」のサンプル出荷を開始しました。
容量は15.36TBと30.72TBで、アーキテクチャとしては最大122.88TBまでの大容量化に対応します。E1.Lフォームファクターを採用し、1Uサーバーへ多数のSSDを高密度に搭載する用途を狙います。現在は機能評価用の限定サンプルであり、量産製品の最終仕様とは異なる可能性があります。KIOXIA Corporation
QLCは、一つのメモリセルに4bitを記録する方式です。
書き換え耐久性や速度よりも、低コストで大容量を実現しやすいため、
- AI学習データ
- モデルデータ
- 動画・画像
- 長いコンテキスト
- 推論履歴
- KVキャッシュの下位階層
など、大量のデータを保存する用途に向きます。
HBMを増やすだけでは、AIエージェントが使う全データを保持できません。
高価なHBMから安価なQLC SSDまで、用途に応じてデータを階層配置することがAIシステムの経済性を決めます。
7-2.CM9シリーズに直接液冷対応モデル
10月13日
元記事:キオクシア「エンタープライズSSD『KIOXIA CM9シリーズ』に直接液冷対応モデルを追加」
キオクシアは、E3.SフォームファクターのCM9シリーズに、コールドプレートによる直接液冷対応モデルを追加しました。
直接液冷環境と従来の空冷環境の双方で使用できます。限定顧客向けにサンプル出荷を開始しています。KIOXIA Corporation
ここが重要です。
液冷はGPUやCPUだけを冷やす技術ではなくなります。
ラック内のGPU密度が上がれば、SSD、ネットワーク機器、電源変換器などの発熱も増えます。
SSDがKVキャッシュやContext Memoryとして頻繁に読み書きされれば、ストレージ自体も冷却設計へ組み込む必要があります。
キオクシアの二つの発表をつなげると、
NANDは「保存装置」から「AIメモリ階層の一部」へ移り、その結果として液冷ラックの構成部品になる
という変化が見えます。
8.〖国内最重要・電源半導体〗ルネサス――800VDCの上流と下流をGaNで押さえる
8-1.650V GaNを8mm角・両面冷却パッケージに
9月30日
元記事:Renesas
「Renesas Unveils Industry’s First 650V GaN in Dual-Side Cooled 8x8mm Package for Megawatt-Scale AI Data Centers」
ルネサスは、800VDC型AIデータセンター向けに、8mm角の両面冷却パッケージへ収めた650V GaNを発表しました。
同社によれば、
- オン抵抗20mΩ
- 従来の10×15mm TOLT型より実装面積57%減
- 上面側熱抵抗を10%低減
- 800Vから48V、12V、6Vへの変換
- BBU・キャパシタバンク向け
を想定しています。
主要なAIデータセンターOEM・ODMへサンプル出荷中で、量産開始は2027年半ばの計画です。性能・「業界初」という表現はいずれもルネサスによるものです。Renesas
8-2.100V GaNで48V以下の電力変換も高効率化
10月6日
元記事:Renesas
「Renesas Expands GaN Portfolio with First Low-Voltage GaN FETs for AI Data Centers and Robotics」
ルネサスはさらに、100Vの低電圧GaNファミリーを投入しました。
800VDCから48Vへ下げた後、GPU、CPU、メモリなどが必要とするさらに低い電圧へ変換する段階で使います。
同社は、シリコン型と比べて1〜3%の効率向上、スイッチング損失40〜70%削減、最大2倍の電力密度を掲げています。これらはルネサスが示した設計・製品性能値であり、すべての実装条件で同じ効果が得られることを意味しません。製品はすでに販売を開始しています。Renesas
二つのニュースを合わせると、ルネサスは、
800V側の高電圧変換
→ 48V中間バス
→ GPU近傍の低電圧変換
までを一つのGaN製品体系で押さえようとしています。
AI半導体市場をGPUやHBMだけで見ると、この市場を見落とします。
データセンターへ100MWの電力を供給しても、変換段階で1%を失えば1MWが熱になります。
したがって、パワー半導体の効率改善は、
使えるGPU数、冷却設備容量、電力料金、PUEへ直接影響するAI計算技術
です。
9.AMD――「製品はある」から「供給能力と実配備」へ
10月6日・13日
元記事①:Reuters「AMD plans to substantially increase supply in 2027, CEO says」
元記事②:Reuters「Scaleway to build AMD-powered AI supercomputer in Sweden」
AMDのLisa Su CEOは、2027年にCPUとGPUの供給量を大幅に増やすと述べました。
そのために、
- TSMCの先端ウエハー能力
- Samsung、SK hynixなどのメモリ供給
- Foxconnなどのシステム製造能力
を確保し、3〜5年先まで供給計画を立てていると説明しています。Reuters
10月13日には、フランスのクラウド企業Scalewayが、AMD Instinct MI355Xを使った商用AIスーパーコンピューターをスウェーデンに構築すると発表しました。
サーバーはGiga Computing、ネットワークはHPE、ストレージはVAST Data、冷却はMotulなどが関わります。Reuters
ここで重要なのは、AMD製GPUの性能比較だけではありません。
AMDのAIシステムにも、
GPU
+ CPU
+ HBM
+ サーバー
+ ネットワーク
+ ストレージ
+ 液冷
という一式のサプライチェーンが付き始めたことです。
AMDのOCP発表によると、Heliosラックの初期システムはOpenAI、Meta、Microsoft、Oracleに設置され、検証・導入が進んでいます。
また2027年投入予定の第6世代EPYC「Verano」は、EPYCとして初めてLPDDRメモリインターフェースを採用します。AIサーバーではCPU側でも、従来のDIMMだけでなく、省電力で高帯域なLPDDR系メモリを使う流れが強まっています。AMD Newsroom
10.中国市場――NVIDIA 34%、Huawei 28%。非GPU型がGPUを台数で上回る
10月13日
元記事:Reuters「Nvidia’s China AI-chip share falls as Huawei closes gap, report finds」
IDCの調査をReutersが報じたところによると、2026年上期の中国データセンター向けAIアクセラレータ市場は次のようになりました。
| 企業 | 出荷台数 | シェア |
|---|---|---|
| NVIDIA | 67万8,000台 | 34% |
| Huawei | 57万2,000台 | 28% |
| Alibaba T-Head | ― | 7% |
| Cambricon | ― | 5% |
| Baidu Kunlunxin | ― | 4% |
| Hygon | ― | 3% |
NVIDIAは依然として単一企業では最大ですが、出荷台数は前年同期比44%減りました。Huaweiは前年の30万台超から57万2,000台へ増加しています。Reuters
さらに重要なのがチップ方式です。
中国で出荷されたAIアクセラレータは合計200万8,000台でした。
そのうち、
- GPU:99万1,000台
- GPU以外のAIアクセラレータ:101万6,000台
となり、非GPU型が台数でGPUを上回りました。非GPU型は前年同期比で約80%増えています。Reuters
これは、非GPU型の計算性能や売上高がGPUを上回ったという意味ではありません。
1台当たり性能、価格、用途が異なるため、台数だけで優劣は決まりません。
それでも、中国では推論や特定用途を中心に、
GPUでなくても処理できる仕事を、国産ASIC・NPUへ移す
動きが進んでいます。
IDCは、競争軸が単体チップ性能から、大規模クラスタの中でどれだけ効率よく動くかというシステム性能へ移っていると指摘しています。Reuters
日本企業が中国AI半導体市場を分析する場合、製造ノードの遅れだけを見てはいけません。
中国企業が多数のNPUを使うなら、
- メモリ
- 基板
- 電源
- 光接続
- 冷却
- ネットワーク
の必要量が増える可能性があります。
チップ単体性能の不足を、システム全体の物量で補う市場構造にも商機があります。
11.NVIDIA――Vera Rubinを「専有設計」からOCP標準へ
10月12日
元記事:NVIDIA
「OCP Global Summit: Amid Ecosystem Adoption, NVIDIA Opens Vera Rubin Architecture to Help Scale AI Factories Worldwide」
NVIDIAは、Vera Rubin向けのラックおよびコンピュートトレイ設計を、MGXアーキテクチャを通じてOpen Compute Projectへ提供しました。
MGX 1.2には、
- ラック規模のブラインドメイト液冷
- 相互運用可能なラック間接続
- 液冷対応5,000Aバスバー
- 標準化された電力・冷却インターフェース
- 250kWまでのラック設計
が含まれます。NVIDIA Blog
これは、NVIDIAが知的財産をすべて無償公開するという意味ではありません。
GPU、ネットワーク半導体、ソフトウェアなどの中核技術はNVIDIAが保持します。
公開するのは、ODM、サーバーメーカー、電源・冷却機器企業が共通の仕様に基づいて、Vera Rubin対応設備を量産しやすくするラック・設備側の設計です。
ここから分かることは、AI半導体の競争単位が変わったことです。
以前は、
GPUを一個購入する
という市場でした。
現在は、
GPU、CPU、HBM、ネットワーク、ラック、バスバー、液冷、管理ソフトを一つの量産可能なAI Factory部品として購入する
市場になっています。
日本企業がAI半導体市場へ入る場合、NVIDIA GPUそのものを作れなくても、
- バスバー
- QDコネクタ
- コールドプレート
- ポンプ
- センサー
- 電源変換器
- 光部品
- 基板
- 検査装置
をOCP・MGX仕様へ合わせることで、世界のサプライチェーンへ入れる可能性があります。
12.注目技術:Volantis――AIチップとメモリの間も光接続へ
10月1日
元記事:Reuters「Volantis raises $88 million for tech to connect AI, memory chips」
半導体スタートアップVolantisは、8,800万ドルを調達し、AIプロセッサとメモリをVCSEL光通信で接続する技術を開発しています。
同社は、現在の電気接続ではGPUの近くに置けるメモリチップが約8個に限られるのに対し、光接続によって約220個まで接続できる可能性があると説明しています。これはVolantis自身の技術目標であり、量産製品や第三者実証による確定値ではありません。同社は翌年のチップ投入を計画しています。Reuters
現在、HBMはGPUのすぐ近くへ置かなければ、十分な帯域を確保できません。
しかしHBMを大量に積むほど、
- パッケージ面積
- 熱
- 歩留まり
- コスト
- 電気信号の到達距離
が制約になります。
光I/Oによって、プロセッサから少し離れた位置にある多数のメモリを高速接続できれば、AIパッケージ設計を変えられる可能性があります。
ただし、これはまだ量産前の技術です。
現時点では、
HBMを置き換える確定技術ではなく、「Memory Wall」を解く候補の一つ
として見るべきです。
13.AI半導体の全体構造を並べ直す
今回のニュースを積み重ねると、AI半導体の供給網は次のように整理できます。
| レイヤー | 今回の主なニュース | 経営上の指標 |
|---|---|---|
| AIサービス | Microsoftが自社サービスをMaiaへ | 1トークン当たり原価 |
| アクセラレータ | Maia、NVIDIA、AMD、中国NPU | Tokens per MW |
| HBM | Micronの2027年供給枠が大半契約済み | 契約容量・帯域・電力 |
| システムメモリ | SOCAMM、LPDDR、CXL | 容量・帯域・省電力 |
| SSD/NAND | キオクシアQLC、DLC対応SSD | Context Cache原価 |
| 先端パッケージ | TSMC・GlobalFoundries | CoWoS/インターポーザ能力 |
| 電源変換 | ルネサス650V・100V GaN | 変換効率・電力密度 |
| ラック設備 | NVIDIA MGX 1.2 | kW/ラック、冷却、保守性 |
| 光I/O | Volantis | メモリ接続距離・帯域 |
ここから出る結論は明確です。
AI半導体は、単品のチップ市場ではありません。
1MWの電力を受け取り、
- 電圧を変換し
- AIチップを動かし
- HBMとSSDからデータを送り
- ネットワークで多数のチップを接続し
- 発生した熱を液冷で捨て
- 最終的にトークンを生産する
一つの設備システムです。
したがって企業価値を評価する指標も、
FLOPS
→ Tokens per MW
→ Tokens per dollar
→ Revenue-generating tokens
へ移っていきます。
14.前号から何が変わったのか
| 前号まで | 今回 | 変化 |
|---|---|---|
| HBMがDRAM能力の約3割を使う | 顧客が320億ドルを前払い | 生産能力の囲い込みが金融取引になる |
| 非NVIDIA半導体に100MW級需要 | Microsoftが最大100万個超・マルチGW | カスタムASICが主力基盤へ |
| HBM4がRubinへ搭載 | Maia 300もHBM4を8スタック搭載 | HBM4需要がGPU以外へ広がる |
| 台湾でCoWoS能力を増強 | 米国でもインターポーザを生産 | 先端パッケージを地理的に分散 |
| NANDを演算・Context用途へ | 高密度QLC+液冷SSD | SSDがAIラックの構成部品になる |
| 中国企業がロードマップを提示 | HuaweiがNVIDIAに6ポイント差 | 国産化が実際の出荷シェアへ |
| AI半導体=演算・メモリ中心 | GaN、液冷、ラック標準まで一体化 | Power-to-Token全体が競争単位になる |
前号の問いは、
「限られたウエハー、HBM、パッケージ能力を誰が先に確保するのか」
でした。
今回、さらに次の問いが加わりました。
「確保した半導体・メモリ・電力から、誰が最も多くのトークンと売上を生み出せるのか」
です。
15.東証プライム企業の経営会議で確認したい六つのこと
1.NVIDIA前提だけでAI投資計画を作らない
NVIDIAは引き続き最も重要なAI半導体企業です。
しかしMicrosoft、Google、Amazon、Meta、Alibabaなどは、自社ワークロードをカスタムASICへ移しています。
AIインフラを調達する企業は、
- NVIDIA GPU
- AMD GPU
- クラウド各社のカスタムASIC
- 推論専用半導体
を用途別に比較すべきです。
学習、高速推論、長いコンテキスト、社内AIエージェントでは、最適な半導体が異なります。
2.FLOPSではなく「1MW当たりの成果」を聞く
今後、ベンダーへ確認すべき指標は、
- Tokens per MW
- Tokens per rack
- Tokens per dollar
- GPU/ASIC利用率
- 1リクエスト当たり電力
- HBM使用量
- KVキャッシュ原価
です。
半導体単体が速くても、メモリ待ちやネットワーク待ちで利用率が下がれば、設備投資は回収できません。
3.メモリを市況品として扱わない
Micronの320億ドルのコミットメントは、HBMやDRAMが「必要になった時に市場で買う商品」ではなくなったことを示しています。
2027〜2028年に大量のメモリを必要とする企業は、
- 長期供給契約
- 前払い
- 最低購入量
- 価格連動式
- 供給優先順位
- 技術世代の切り替え条件
を事前に決める必要があります。
4.HBM以外のメモリ価格もストレステストする
AI需要は通常DRAMとNANDにも波及しています。
サーバー、車載、通信機器、PC、産業機器を作る企業は、
DRAM・NAND価格が30%、50%上昇した場合
を2027年度の原価計画に入れるべきです。
5.先端パッケージの第二供給地域を確認する
TSMCのウエハー製造能力だけを確認しても不十分です。
- インターポーザ
- CoWoS組立
- パッケージ基板
- HBM実装
- 検査
- 量産拠点
が台湾、米国、日本、韓国のどこにあり、障害時に切り替えられるかを確認する必要があります。
6.AI半導体市場への参入領域を演算チップに限定しない
日本企業が利益を取れる領域には、
- パワー半導体
- 電源IC
- 基板
- 実装材料
- シリコンインターポーザ材料
- SSD
- コールドプレート
- QDコネクタ
- 光接続
- 検査装置
- 液冷監視センサー
があります。
ルネサスとキオクシアの発表が示す通り、GPUを設計しなくても、AI半導体システムの不可欠な部分を取ることができます。
16.次の2週間で確認すべきポイント
次号では、まず10月15日に発表されたTSMCの第3四半期詳細決算を確認する必要があります。本稿は10月13日締めなので、売上高以外の詳細は意図的に入れていません。
特に見るべきなのは、
- 2nm・3nmの稼働率
- AI向け売上比率
- 2027年設備投資
- CoWoS能力
- 米国・日本・欧州Fabの進捗
- Texas投資の検討状況
です。
またOCP Global Summitは10月15日まで続いたため、10月14〜15日に発表された、
- 800VDC
- 液冷
- CPO・光接続
- AIメモリ
- ラック標準
- 先端電源
に関するニュースは次号に送ります。
Samsungについては10月29日の部門別確定決算で、HBM、通常DRAM、NAND、ファウンドリー、スマートフォンの利益配分を確認する必要があります。
Microsoft Maia 300では、
- 100万個超の配備が実際にどのペースで進むか
- HBM4の供給元
- TSMCの製造能力
- Broadcomなど設計・実装パートナー
- 1MW当たり40%改善の比較条件
が次の焦点になります。
キオクシアとルネサスについては、サンプル出荷から顧客認定、量産、売上計上までを追う必要があります。
まとめ――AI半導体は「買う製品」から「事前に確保する生産システム」へ
この14日間で、AI半導体・メモリ市場の構造がさらに明確になりました。
Microsoftは、Maia 300を最大100万個超、マルチGW規模で配備し、独自AI半導体を自社サービスの主力基盤へ引き上げようとしています。
Micronでは、顧客が320億ドルの金融コミットメントを行い、将来のメモリ供給能力を事前に確保しています。
SamsungはAIメモリによって営業利益を約9倍へ増やす一方、メモリを購入するスマートフォン部門は原価上昇に苦しんでいます。
TSMCは過去最高の売上高を記録し、GlobalFoundriesと協力してCoWoS用インターポーザの米国供給網を作ります。
中国ではNVIDIAのシェアが34%へ下がり、Huaweiが28%まで接近しました。非GPU型アクセラレータは、台数でGPUを上回りました。
日本ではキオクシアが、QLC SSDと直接液冷SSDによってNANDをAIメモリ階層へ組み込み、ルネサスは800VDCからGPU近傍までの電力変換をGaNで押さえようとしています。
NVIDIAはVera Rubinのラック設計をOCPへ提供し、半導体、電源、液冷、ネットワークを共通仕様で量産できるようにしています。
これらを一本につなぐと、AI半導体市場は、
最も高性能なチップを作る競争
から、
ウエハー、HBM、パッケージ、SSD、電源、冷却を事前に確保し、1MW当たり最も多くのトークンと売上を生み出す競争
へ移ったと整理できます。
東証プライム企業にとっての最大の問いは、
自社は、GPUの勝者を予想するのか。それとも、どのAI半導体が勝っても必ず必要になる供給網の一部を取るのか。
です。
後者には、日本企業が取れる市場が数多く残っています。



