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太陽誘電とTDKが組む理由。メガワット級次世代ラックスケールAIサーバーで足りなくなる積層セラミックコンデンサ(MLCC):図解解説

2026年9月29日、太陽誘電とTDKは、積層セラミックコンデンサ(MLCC)とインダクタを中心とする電子部品の共同開発について、業務提携の検討を始める基本合意書を締結しました。

太陽誘電プレスリリース(PDF):TDK 株式会社との業務提携に係る基本合意書締結に関するお知らせ

TDKプレスリリース:TDKと太陽誘電株式会社との業務提携に関する基本合意書の締結について

翌30日、太陽誘電株は一時9.1%高の9,955円、TDK株は一時5.0%高の3,066円まで買われています。市場が評価したのは、売上の上振れそのものではなく、AIサーバーの電源まわりで起きている部品不足に、日本の3位と4位が供給を足す側へ回った構図です。

合意の中身は、まだ契約ではありません。共同開発を主軸に、製造と調達の連携を含む包括的な提携の役割分担をこれから詰め、将来の資本提携の可能性も協議する、という段階です。TDK広報も、現時点で具体的に決まった話はなく、資本提携でシナジーが出るかも含めて検討する、と説明しています。それでも両社のリリースは、需要の出どころをはっきり書いています。生成AIの普及で、AIデータセンター、AIサーバー、さらにフィジカルAI向けの半導体とチップセットが増え、その高性能化に伴って、電源の安定化とノイズ抑制に欠かせない高容量・高信頼性のMLCCとインダクタが足りなくなっている、という認識です。

東証プライム経営者向けの解説

経営者向けに需給を一言で言うなら、計算を担うGPUの増設スピードに対し、その直近で電気を安定させる受動部品の供給が追いついていない、ということです。AIサーバーは汎用サーバーよりはるかに多くの電流を、より低い電圧で、24時間流します。電源をチップから離して置くと配線での損失が大きくなるため、電源回路を基板の裏側や内部に置き、半導体との距離を縮める垂直給電が次の本命になっています。そこで必要になるのが、基板に埋め込める小型・大容量・高信頼性のMLCCです。

太陽誘電はこの用途で先行しています。2025年12月、同社は2012サイズ(2.0×1.25mm)で静電容量100μFの基板内蔵対応MLCCを世界で初めて商品化し、2025年11月から群馬県の玉村工場で量産を始めたと発表しました。すでに商品化していた1005サイズ22μFと合わせ、AIサーバーのIC電源ライン向けデカップリング用途です。同社の説明では、電源を基板内に置くことで配線が短くなり、電力ロスを減らせ、他の部品の搭載スペースも確保できる、としています。サンプル価格は1個120円と、汎用品とは別の価格帯です。

施設側の給電も、同じ方向に動いています。NVIDIAは2027年以降の1メガワット級ラックに向け、800Vの直流給電を推進しています。変換段を減らし、ラック内の電源装置が計算資源の置き場を食わないようにする構想です。ここで役割が分かれます。800Vからチップ近傍の低電圧へ落とすのはGaNなどのパワー半導体であり、ルネサスは2026年9月30日、メガワット級AIデータセンター向けの両面冷却650V GaNのサンプル出荷を始めています。一方、変換したあとの電流をチップ直近で安定させ、ノイズを抑えるのがMLCCとインダクタです。メガワット給電と垂直給電は、別会社の別製品でありながら、同じラックの中で同時に要る部品です。

AIサーバー業界の需要動向

需要の規模感は、業界推計として見る必要があります。複数の報道は、AIサーバー1台のMLCC搭載数が汎用サーバーのおよそ8〜12倍以上、NVIDIAのNVL72系では1ラックあたり数十万個、という数字を伝えています。韓国メディアには、AIサーバー用MLCC需要が2030年に2023年比で約25倍になるという見通しもあります。個数の出典はばらつくため、記事の判断材料としては受注の方が確かです。

村田製作所の2026年4〜6月期は、受注高が前年比56.3%増の6,739億円で過去最高、うちコンデンサは85.5%増の4,155億円でした。同社は2027年度までの2年でMLCC設備に約800億円を投じ、2027年度に能力を2割超増やす計画です。副社長は、AIサーバー由来の成長が少なくとも2028年まで続くとし、将来3〜5年の増産は過去より大胆になり得ると述べています。一部の汎用品は寿命終了とし、能力を高付加価値へ寄せる動きも報じられています。太陽誘電の同期も、受注高が前年比83.4%増、受注出荷比率は全体で1.58、MLCCで1.72、という集計があります。1を大きく上回る状態は、作った分より注文が多いことを意味します。

村田製作所との競争図式

競争の図式は、ここから読めます。モルガン・スタンレーの2025年出荷金額ベースとして伝えられるシェアは、村田約40%、サムスン電機約22.5%、太陽誘電約11.3%、TDK約6.9%です。公式統計ではないため幅を持って見るべき数字ですが、3位と4位を足しても村田の半分弱です。首位が能力をAI向けに寄せてもなお受注をさばききれず、2位のサムスン電機もAIサーバー向けの長期供給を伸ばしている。その隙間を、日本の3位と4位が共同で埋めにいく、というのが今回の基本合意の産業的な意味です。

補完関係も明確です。太陽誘電は小型大容量と基板内蔵に実績があります。TDKは車載級の高温・薄型技術と、インダクタを含む電源周辺の品ぞろえが広い、と見られています。ロイターが紹介した証券会社の見方では、相対的に規模の小さい太陽誘電が大型投資する際、TDKが後ろ盾になり得る、とされています。関東勢同士の組み合わせが、関西の村田に対する「東の雄」になる、という市場のたとえは、この規模差を踏まえたものです。

日本政府の政策が後押し

政策の文脈もあります。MLCCなどの先端電子部品は、経済安全保障推進法の特定重要物資です。両社は、共同で供給確保計画を策定し、経済産業省への認定申請や支援申請を行うことも検討する、としています。単なる開発提携ではなく、国内の供給基盤として位置づける意思表示です。フィジカルAIは、その需要の次の出口です。ロボットや自動運転では、データセンターほど個数は多くなくても、高温・振動・長時間稼働に耐える高信頼部品が要ります。両社はリリースで、フィジカルAIを含むAI関連分野の技術優位を通じて産業競争力に貢献する、と書いています。データセンターで磨いた基板内蔵と高信頼の量産を、車とロボットの電源へ横展開できるかが、2030年に向けた次の論点です。

未確定のまま残っているものも多いです。役割分担、投資額、生産拠点、顧客名、資本提携の有無は、いずれもこれからの協議です。村田のシェアを直ちに奪う、という話でもありません。現時点で言えるのは、AIサーバーの電源部品が能力不足の局面に入り、日本の電子部品メーカーが単独増産だけでなく、開発・調達・政策申請を束ねる側へ動き始めた、ということです。経営判断としては、GPUやメモリの headlines だけでなく、その下で電気を安定させるMLCCの納期と価格が、AIインフラの実工期を左右する制約になり始めている、と見ておくのが妥当です。

記事内の7つの用語の解説

MLCC(積層セラミックコンデンサ)は、電気を一時的に蓄え、電圧の落ち込みやノイズを抑える受動部品です。米粒より小さいものも多く、AIサーバーでは1台に数千から数十万個載るため、単価は低くても金額と納期の両方で制約になります。

インダクタは電流の変化を穏やかにする部品で、電源回路ではMLCCと組で使います。デカップリングは、ICのすぐそばで急な電流変動を吸収し、電源を安定させる使い方です。

垂直給電は、電源部品をチップの下や基板内部に置き、配線距離と電力ロスを減らす設計です。基板内蔵対応MLCCは、そのために銅めっき電極などで基板の中に埋め込めるようにした製品です。

800V直流給電は、データセンターの受電からラックまでを高い直流電圧で送り、変換回数と銅の使用量を減らす方式で、1メガワット級ラックの前提として検討されています。

GaNは窒化ガリウムを使ったパワー半導体で、高い電圧を小さい体積で効率よく変換するのに向きます。

受注出荷比率(B/Bレシオ)は、出荷に対する新規受注の比率で、1を超えると需要が供給を上回っている目安になります。

フィジカルAIは、AIがロボットや自動車など物理世界の機械を動かす領域を指し、データセンター向けと同じ高信頼の電源部品が別市場として立ち上がり始めています。

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イラスト・原作:ソラガスキ

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