不動産サービス大手JLL(ジョーンズ ラング ラサール)が今年1月に発表したレポート「2026 Global Data Center Market Outlook(2026年グローバル・データセンター市場見通し)」の要点を、ビジネスやIT戦略の観点から分かりやすく整理してまとめました。
生成AIの爆発的普及を背景に、データセンター市場は歴史的な拡大局面を迎えています。今回のJLLレポートでは、急激な需要拡大の一方で「電力網のボトルネック」と「建設コストの上昇」が浮き彫りになっており、事業者の開発戦略や企業のITインフラ戦略に大きな転換を迫っています。
1. エグゼクティブ・サマリー(重要ポイント)
- 市場規模は5年で倍増へ(年平均成長率14%)
2026〜2030年の間に約100GWの新規供給が追加され、世界の総容量は200GW規模へとほぼ倍増する見通しです。 - 2027年、AI需要の主役が「学習」から「推論」へ逆転
2025年時点ではデータセンターのワークロード全体に占めるAIの割合は約25%(大半がモデル学習)でしたが、2027年には実利用に伴う「推論(Inference)」が逆転し、2030年にはワークロードの半分をAIが占めると予測されています。 - 立地選定の最優先条件は「場所」ではなく「受電スピード」
主要市場における送電網(グリッド)への接続待機期間は平均4年を超えています。用地確保よりも「いかに早く電力を引けるか(Speed to Power)」が最重要指標になっています。 - 総投資額3兆ドル規模の巨大インフラ・スーパーサイクル
建物・インフラ(不動産側)に約1.2兆ドル、サーバーやGPU・ネットワーク機器(テナント側)に1〜2兆ドルが投じられ、2030年までの総支出は最大3兆ドルに達する見込みです。
2. 地域別の成長動向
| 地域 | 2030年までのCAGR | 特徴と展望 |
| 南北アメリカ(AMER) | 17% | 世界シェアの約50%を占める最大市場。そのうち約90%を米国が牽引し、高成長を維持。 |
| アジア太平洋(APAC) | 12% | 容量は32GWから57GWへ拡大。コロケーション需要が急伸(+19%)する一方、クラウド移行に伴い自社保有(オンプレ)は減少傾向。 |
| 欧州・中東・アフリカ(EMEA) | 10% | 政府によるAIインフラ支援や、データ主権(ソブリンAI)規制への対応需要が牽引。 |
3. インフラが直面する3大課題
① 電力グリッド接続の長期遅延と「電力の自給自足」
欧米主要都市(ダブリン、フランクフルト、ロンドン、バージニア北部など)やアジアのハブでは、電力系統の容量不足により新規接続まで数年待ちが常態化しています。
そのため事業者は、以下のような「自前電力(Behind-the-meter)」モデルへの転換を急いでいます。
- 敷地内への大型蓄電池(BESS)の併設
- 米国を中心とする天然ガス発電タービンによる暫定・恒久給電
- 欧州などで進む再生可能エネルギーと自営線(Private Wire)の直接調達
- 自治体・電力会社による「電力自給(Bring Your Own Power)」義務化への対応
② 建設コストと仕様の急激なインフレ
- 開発費の上昇: 2020年の770万ドル/MWから2025年には1,070万ドル/MWへ上昇(CAGR 7%)、2026年もさらに上昇して1,130万ドル/MWに達する予測です。
- 高密度化と液冷対応: 1ラックあたり100kWに迫る超高密度運用が現実味を帯びており、液冷(リキッドクーリング)対応が標準化しつつあります(液冷対応仕様は通常より約10%の追加コスト)。
③ 推論シフトに伴う「分散型・エッジ展開」
モデルの学習(Training)は電力コストが安価な遠隔地の大規模クラスターで行えますが、推論(Inference)はエンドユーザーに対する超低遅延(レイテンシ)が求められます。今後はメガデータセンターだけでなく、大都市近郊の地域ハブやエッジ施設への分散配置が不可欠になります。
4. 企業・インフラ担当者が今すぐ取るべきアクション
JLLは、世界的な空室率がわずか3%(稼働率97%)と極めて逼迫している現状を踏まえ、企業側に以下の対策を推奨しています。
- 電力の早期手配(不動産選定と並行して進める)
不動産物件を決めてから電力会社と交渉する従来の手順では間に合いません。電力会社や発電パートナーとの協議を最優先で走らせる必要があります。 - キャパシティの早期長期予約(プレリース)
供給不足と賃料上昇リスクを抑えるため、必要時期よりも前倒しで枠を抑える長期コミットメントを検討します。 - 将来の液冷・高密度化を見据えた柔軟な施設設計
現時点でAI専用ではない施設であっても、将来的なラック密度の向上や冷却設備の刷新に対応できる余力を設計段階で持たせておくことが求められます。 - ハイブリッド構成(適材適所)の最適化
機密性の高いワークロードはオンプレミスや専用環境に残しつつ、クラウド、コロケーション、エッジを組み合わせた柔軟なポートフォリオを構築することが重要です。
考察まとめ
今回のレポートが示しているのは、「AIの進化速度に、物理インフラ(特に送電網)の整備が追いついていない」という冷徹な現実です。
これからのAI活用競争は、アルゴリズムやモデルの性能だけでなく、「安定した電力設備を誰が最も早く確保できるか」というインフラ調達力が勝敗を分ける決定打になりそうです。
出典・参考URL
- レポート名:2026 Global Data Center Market Outlook(JLL Research)
- URL:https://www.jll.com/en-us/insights/market-outlook/data-center-outlook


